【おすすめの小説】疾走 重松清

賛否両論ありの重松氏の話題作!人々の悪意や孤独を逃げることなく描き切った長編です!覚悟を持って読んでいただきたい、この小説は名作です。

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あらすじ

孤独、祈り、暴力、セックス、殺人。誰か一緒に生きてください――。人とつながりたいと、ただそれだけを胸に煉獄の道のりを懸命に走りつづけた十五歳の少年のあまりにも苛烈な運命と軌跡。衝撃的な黙示録。

(「BOOK」データベースより)

重松清の衝撃のダークストーリー。

この物語はひとの心を抉ります。

苦しい描写も刺激的な描写もあります。

だから覚悟を決めて読んでほしい、これは間違いなく名作です。

 

これまで、人々の善意と悪意を描いたうえで、最後には心がポカポカと暖かくなる物語を用意してくれていた重松氏。

本作は、主人公の少年・シュウジに浴びせかけられる人の悪意や如何ともしがたい環境を、これでもかと描きます。

 

家族が犯した犯罪をきっかけに、シュウジが背負わされた孤独と苦難。

シュウジはただただ独り走ります。

誰かと繋がっていたいだけなのに、自分は何もしていないのに。

孤独感と苦難という重荷を引きずりながら走る、苦しい息遣いが終始聞こえてきます。

 

人の持つ悪意や業の深さの描き方は三島由紀夫氏の「金閣寺」を彷彿とさせます。また、少年の背負う苦難は、乃南アサ氏の「ニサッタ、ニサッタ」とも。

 

シュウジが走るその先には何があるのか。

果たして救いがあるのか、ぜひあなたの目で確かめていただきたい。

もう一度言いますが、この作品は名作です。

 

 

一押しのポイント

これほど物語とマッチした衝撃的な表紙はなかなかお目にかかれません。

大きく口を開き、苦しみと心の穴を剥き出しにした人物像。荒々しいタッチで余計なものを排したデザインに、目が惹きつけられます。

主人公の悲しすぎる心情を十二分に表現しているカバー絵です。

ちなみに、ロンドン在住のアメリカ人アーティスト・Phil Hale氏の作品です。

 

そして、その苦しみ孤独が本作の絶対的なテーマになります。

 

<父は子のゆえに殺されるべきではない。

子は父のゆえに殺されるべきではない。

おのおの自分の罪のゆえに殺されるべきである。

申命記二四ノ一六>

 

教会に貼られていた聖書の一節。

皮肉にも、教会に通ったシュウジは自分が背負うはずのなかった罪を負わされてしまいました。

 

彼の心を蝕む孤独と不条理。

作品を通じて聞こえてくる主人公の苦しく喘ぐ呼吸。

また、語り手は主人公の一人称ではなく「おまえ」という二人称。

いずれも、読むのが辛くなるほどの重みをもちます。

罪人の家族は、周りから虐げられます。そこから逃れようともがき、それでも逃れられず、犯してはいけない罪を犯してしまう。住み込みの新聞配達員を身をやつし隠れて懸命に生きるも、そこでも裏切られる。

苦しみから逃れ、繋がりを求める気持ちが、心を揺さぶります。

 

仲間が欲しいのに誰もいない「ひとり」が、「孤立」。

「ひとり」でいるのが寂しい「ひとり」が、「孤独」。

誇りのある「ひとり」が「孤高」。

 

「ひとり」でいることにも種類があります。

周りから虐げられ孤立し、それでも誰かと繋がっていたいと願う孤独。

シュウジはまさにこれでした。

一方で「ひとり」でいることを自ら選択し、群れることを望まない「孤高」の友人のエリ。

繋がりを持ちたくて持てないシュウジがエリに抱く感情は、恋愛感情というよりも憧れのようでした。

 

ただ、「孤高」の人にも苦しみは襲い、「ひとり」が耐えられなくなる時があります。

街のシャッターに「私を殺してください」とペンを走らせたエリ。

その下に、「誰か一緒に生きてください」と書き込んだシュウジ

辛い辛い道のりを通った「ひとり」と「ひとり」が最後にたどり着くのはどこなのでしょうか。

そして、最後まで「おまえ」と呼びかけていたのが誰なのか。

そこには、作者の祈りや願いが込められているのだと思います。

最後に

苦しく重たい道をひたすらに息を切らして疾走する物語。

この小説を評価する言葉には、心揺さぶられるが一番近いでしょうか。

人間の悪意や「ひとり」の苦しみを重々しく語り続けた本作は、非常に重たく読者にのしかかりますが、そこに込められた祈りや願いは読者にとっての希望となります。

覚悟を決めて一息に読んでいただきたい、重松氏異色の作品です。

 

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