【おすすめの小説】哀愁の町に霧が降るのだ 椎名誠

愛すべきお馬鹿な若者たちのアパート一間の共同生活。お隣さんたちとの攻防や少しの労働、あとは、ただただ酒と飯を食らっての大宴会。椎名氏の痛快青春小説!

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あらすじ

東京・江戸川区小岩の中川放水路近くにあるアパート「克美荘」。
家賃はべらぼうに安いが、昼でも太陽の光が入ることのない暗く汚い六畳の部屋で、四人の男たちの共同貧乏生活がはじまった――。
アルバイトをしながら市ヶ谷の演劇学校に通う椎名誠、大学生の沢野ひとし、司法試験合格をめざし勉強中の木村晋介、親戚が経営する会社で働くサラリーマンのイサオ
椎名誠と個性豊かな仲間たちが繰り広げる、大酒と食欲と友情と恋の日々。悲しくもバカバカしく、けれどひたむきな青春の姿を描いた傑作長編。

 (「BOOKS」データベースより)

 

本作は、酒と食欲を中心に回る、愛すべきしょうもない若者たちの物語です。

 

誰しも若かりし頃は、概しておバカなものだと思います。

ただ、本作に登場する若かりし頃の椎名氏をはじめ、その仲間たちは、輪にかけて果てしなく救いようもなくおバカなのです。

無鉄砲、即物的、浅慮、短気、いずれにも当てはまってしまうような彼ら。

ただし、彼らの貧乏な共同生活は文句なしに面白い。

 

きゃっきゃうふふの恋愛話なんてあまりないけれど、それでもこれは紛れもなく青春小説の名作です。

この小説を執筆している現在と若かりし頃を、行き来しながら展開される本作。

なんてグダグダで愉快な物語なのでしょう。

今に疲れてしまった大人たち、ちょっと昔を思い出してみませんか?

 

一押しのポイント

やはり一番の魅力は、個性を四方八方に発散させる登場人物たちでしょう。

お酒と食べ物とともに繰り広げられる、彼らのしょうのない生活が、実に愉快です。

 

家賃用にとっておいたお金もお酒がもっと飲みたいよーと駄々をこねて酒に使ってしまうし、工事現場にあるピカピカと点滅する電灯を拾ってきてしまうし、暇を持て余しすぎて河原でプロレス大会を開催してしまうし、やること為すこと全てがしょうもないのです。

モラトリアムとは、まさにこのこと。

  

克美荘に暮らす面々はいずれも個性的なのですが、特に一押しは沢野ひとし氏です。

彼は椎名氏とは高校からの友人で、さまざまな作品に登場します。また、本作の挿絵は全てイラストレーターでもある沢野氏が描いています。

そんな彼は作中では、通称”ウスラバカ”と、おバカ達にバカにされています。

沢野になにかやらせようとする時は、とにかくやつになにかハラいっぱいに食わせてからにしろ!というのがわれわれの合言葉であった。話せば分かるやつだよ、という言葉があるが、彼の場合は「食えば分かるやつ」であった

目くそ鼻くそを笑うとはこのことですが、沢野氏が「ビールビール」と騒いでいる様や、「苦しいよォー、苦しいよォー、食べすぎて苦しいよォー」と呻いている姿をみると何だか笑いを誘います。

とはいえ、鍋いっぱいの飯を食わせて、たらふく安い合成酒でも飲ませておけば、もう満足なのは沢野氏に限らず、椎名氏も木村氏もイサオ氏も同じなのですよね。

 

そして、部屋にともに住む仲間以外にも、おかしな克美荘の住民が。

お隣の西村カァチャンは常に半分ドアを開けてその隙間から彼らへの警戒を怠らない戦闘監視員。やたらと因縁をつけてくり同年代の若者。また、部屋でおまえおまえおまえと囁き続けるアル中。おかしな人間たちが揃い踏みで、飽きることがありません。

 

物語を彩る(?)酒と食べ物も、魅力的です。

出来るだけ安く多くをテーマに購入・生産される酒と料理の数々。

当人たちがとても美味そうに食べるので、読んでいるこちらまで実に腹が減ってくるのです。そして、酒をかっくらいたくなるのです。

サバ鍋や、マヨネーズ醤油鰹節メッタまぜソーメン、鍋いっぱいに作ったカツ丼。

それとビールやウィスキー、安い酒などなど。

 

どうです、お腹が空いてきませんか? 

最後に

ただただ飲んで食って、たまに恋愛したり働いてみたり。

ダメダメでグダグタな彼らの共同生活は、それでも紛れもない青春の光を放っています。

 こんなにも面白くてしょうもない青春を送ってみたかった、なんてこともないかもしれませんが、こんな青春時代は悪くないですよね。

一度克美荘に訪れて、酒盛りに参加してみたいものでした。

ちなみに、本作を読んでからお安めの日本酒を飲みたくなること間違いないです。

試してみてはいかがでしょうか。