椎名親子の微笑ましく優しい物語。釣りにカヌーにアウトドアが趣味となった息子を優しく見守る椎名父。あらゆるお父さんにオススメです!
あらすじ
山登りの好きな両親が山岳の岳から名付けた、シーナ家の長男・岳少年。坊主頭でプロレス技もスルドくきまり、ケンカはめっぽう強い。自分の小遣いで道具を揃え、身もココロもすっかり釣りに奪われてる元気な小学生。旅から帰って出会う息子の成長に目をみはり、悲喜こもごもの思いでそれを見つめる「おとう」・・・。これはショーネンがまだチチを見棄てていない頃の美しい親子の物語。
(「岳物語」背表紙より)
椎名氏とその息子・岳。
父は、いつの日か見棄てられるのだろうかと考えながらも、不器用に、ただし愛情いっぱいに、息子と寄り添います。
不器用なところ、少々喧嘩っ早いところ、アウトドアが好きなところ、全てが父親である椎名氏とそっくりです。
幼稚園から小学校高学年までの数年間。
人の畑からさつま芋をこれでもかと誇らしげに「収穫」してきた幼少の岳。
これまで一つも勉強のしなかったのに、釣りに目覚めてそのための勉強には熱を入れる岳。
坊主頭にされることを嫌がるようになった小学校高学年の岳。
屈託のない潔いこの少年の成長の日々と、父子のとてつもなく貴重でキラキラとした「普通」な交流の日々が綴られた本作。
こんな父親と息子の関係、微笑ましく羨ましいです。
大人であれば誰でも楽しめる本作ですが、子育て中のお父さんたちに「父の日」にでも読んでいただきたいお薦めの小説です。
一押しのポイント
やはり一押しは、父親の目を通して描かれる岳少年の生き生きとした姿です。
岳少年は、父母のことを「おとう」「おかあ」と呼ぶのですが、
どうして「おとうさん」「おかあさん」と”さん”をつけないんだ?と聞いてみたら、”さん”をつけるほど偉くないからだ、とけっこうそのときも真面目な顔をして言うのであった。
とこう述べたのです。
なるほど、どこで覚えてきたのか、一応理屈があるのだなと感心してしまいます。
小学校での岳は、案外女の子にモテるようです。
ある日曜日の朝、呼び鈴が鳴ったので椎名氏が新聞の集金かと思って戸を開けると、そこには小学生の少女3人の姿が。
気難しげな顔をした女の子たちに「岳はまだ寝ている」と椎名氏は伝えるのですが、チョコを渡してほしいと頼まれます。そう、それは2月14日、バレンタインデーだったのです。
こういう時、本当に男親は役に立たないものですよね。
どうして良いかわからず狼狽えていると、少女たちは渡して颯爽と帰っていくのです。
椎名氏はバレンタインのチョコを3つももらったことを、すぐさま寝ている岳少年に伝えますが、朝にめっぽう弱くとことんまで真剣に眠り込んでいる少年は起きません。
彼は夏休みのラジオ体操には全然起きず、オチコボレ組だったそう。
プロレス技(インディアン・デスロック)をかけてまで起こそうとする椎名氏には、笑ってしまいました。
ようやく起きても
「わかったわかった。それはよかったネ」
と固め技から逃れてまた寝入ってしまう岳少年にも、また笑いがこみ上げます。
そんな岳少年ですが、好きなものには一直線。
北海道におけるカヌー旅や魚釣りにいく朝には、きっぱりと起きてしまうのです。
これについて椎名氏はこう言っています。
そのあまりにもゲンキンきわまりない態度に私は正直な話、すこしムッとしてしまったほどなのである
椎名氏は仕事柄、国内外問わず長期的に家をあける機会が多いため、数週間から数ヶ月に渡ってその息子と会えない日々が続くことがあります。
長いこと構ってやれなかった息子のために、釣りの旅に連れて行ってやった際に、海に落ちないように注意する父に対して、
岳は顔をしかめ、再びまた<まったくコレだからいやになるんだ>というような顔をして、「あのねえ、ぼくは人間だよ。ネコやダンボールとちがうんだからこのくらいの風で飛ばされるわけはないだろう」
小学生高学年になった岳少年は、快活な性格ながらなかなかに小憎たらしいことをいうのですね。
親の気も知らずにすくすくと自由気ままに成長する少年。自分自身が小さかった頃を思い起こすと、よく両親にこのように小憎たらしい生意気なことを言っていたことを思い起こして不思議な気分になりますね。
椎名氏はそんな岳の成長の一つ一つに戸惑いながらも、常にその目線を非常に優しく暖かいのです。
本作を通じて、読者も一緒になって岳の成長を見守る気分になれます。
まさに本作は、岳物語です。
終わりに
たまには家族揃って、アウトドアに行きたくなりますね。
川や山、湖なんかも良いかもしれませんね。
GWや夏休みは、釣り道具を揃えて車や電車に乗って、楽しんでみてはいかがでしょうか。
ちなみに、本作には「続・岳物語」という紛うことなき続編があるので、こちらも読んでみてくださいね。