【おすすめの小説】スロウハイツの神様 辻村深月

辻村深月氏の傑作!小説家に、脚本家、漫画家、映画監督、あらゆるクリエイター必見!他ならぬ「自分」のため、何かを生み出そうと一心に努力する彼らの悩みと成功の物語。

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あらすじ

人気作家チヨダ・コーキの小説で人が死んだーー

あの事件から10年。
アパート「スロウハイツ」ではオーナーである脚本家の赤羽環とコーキ、そして友人たちが共同生活を送っていた。
夢を語り、物語を作る。
好きなことに没頭し、刺激し合っていた6人。
空室だった201号室に、新たな住人がやってくるまでは。

 

辻村氏の5作品目にあたる本作は、文庫版で上下2巻にわたる長編。

これまでと趣が異なり、「すこし不思議な」物語ではありません。

まっすぐに前を見つめて、まっすぐに歩もうとする、「ひと」のお話です。

舞台は、スロウハイツというアパート。

あの手塚治虫氏や藤子・F・不二雄氏などが創作活動で同居していた「トキワ荘」のように、脚本家や小説家、漫画家、映画監督などのクリエイターを目指す若者たちが、ハウスシェアをして共に暮らします。

そんな彼らが心を削って、何を成し遂げるのか。その過程で何を思うのか。

生きていくって簡単ではないけれど、夢を叶える過程もすぐには見つからないけれど、どれも自分のための道。

彼ら一人一人の生き様に、胸を打たれてみてください。

 

なお、辻村氏の著作で、映画化やドラマ化されるのが最も早いのはこの小説なのではないかと予測しています。また、「凍りのくじら」の芦沢理帆子が登場するのも、ファンにとっては嬉しいところです。

 

一押しのポイント

大学に入り就職活動をして会社に入社して、というような一つのレール上にはいない彼ら。自らレールを敷いていく必要のある彼らはただ、自分の夢が明確です。

そして、やりたいことが明確で、それに向かう努力を惜しまない彼らはやはり魅力的に私には映ります。

 

印象に特に残った一人は、赤羽環。

辻村氏は、ひとの心の持つ弱さへの理解が深く、描写が非常に巧みな小説家です。

スロウハイツのオーナーである赤羽環には、他人の様々な弱さが見えてしまう。そして、どうでも良い他人であれば無視できるものを、友人の見せる弱さは許せない。

その一方で、彼女は自分に求める水準も非常に高い。

単純に言うなれば、自分に厳しく他人にも厳しい個性を持ちます。

 

そんな環は仕事の大変さについて、画家を目指すすみれとこう会話をします。

「人から『大変ですね』って言われるたびにさ、本当は楽しいことでも謙遜して見せなきゃいけない時ってよくあって」

「『そーなんですよ、すごく大変で』って、向こうに合わせて答えてた。そしたらある時、その場に黒木さんが同席してて、あの人が私に言ったの。『でもそれ、自分で決めたんだろう?』って」

たしかに、自分の意志の働かない子供の頃とは異なり、誰もが自分の選択の連続の上に今の自分があります。

仕事が大変といってもその仕事を選んだのは自分。

嫌なら辞めれば良いのです。辞めたときのことを考えて辞めないのも、また自分。

全て自分が自分のためにやっていることだから、という非常にストイックな信念は尊敬できるものだと考えます。

 

これは個人の想像でしかないのですが、辻村深月氏は赤羽環のような、強さと潔さと矜持を持った女性なのではないでしょうか。

 

 

そして、もう一人印象に強く残ったのは、森永すみれ。

彼女は非常に優しい、環と大きくタイプの異なる女性です。

ほわほわした雰囲気にもかからわず、実は大酒飲みと言うギャップは男性にはたまらないですよね。

 

ただ、彼女の途中の恋愛で見せる弱さは非常にいらいらとさせられるものでした。

「凍りのくじら」には若尾と言うキャラクターが登場しましたが、すみれの付き合う男はそれに通ずる個性を持つキャラクターのように感じます。実体のない自尊心や、嫉妬心、支配心が膨れていく様が、ただただリアルに描かれます。

二人だけの閉じた世界で、分刻みで送られてくるメール。火のないところに火を探そうとする精神。そして、それを増長させるすみれ。

 

環はこの恋愛をこう評します。

「底の浅いプールで、無理やり足がつかないふりをして楽しんでいる」

こういう表現もうまいですよね。

なんだか昔の自分をみているようで、むず痒いような気持ちにさせられました。

 

環とすみれ。彼女ら二人の関係は、ガガとサッカの物語に集約されています。

強さと優しさ、片方に目が行きがちだが、案外人は両方持っているものだと。

全ての登場人物が、素敵なエンディングを迎える本作は、作者の愛がいっぱいに詰まった作品です。

 

 最後に

この作品を読んだあと、映画鑑賞や読書の欲求がこれまで以上にあふれ出ます。

何のクリエイターでもないけれど、こんな愛の詰まった作品を読むことができるのは幸せなことですね。

なお、クリエイターの物語という意味では、辻村氏の別著作「ハケンアニメ」もお薦めです。